聞いた話によると

——-

おじさんは言った。

つまりさ、くつは生きてんだよ。
俺のくつは困ったもんだよ。仕事に行こうとくつを履くと、まず最初にコンビニのマンガコーナーに行くんだよ。こっちは仕事に行かなきゃなんないのに、そっから動きゃしねーのさ。でも、くつにマンガを読ませてたら、万引きかなんかだと思われちゃうだろ?だから一冊買ってやったのさ。そしたら喜んで公園に行くんだ。勝手にスキップさせてさ。50にもなるおっさんが公園でスキップなんて健康的すぎて嫌気がさすから。でも裸足で歩くと犬のクソを踏むだろ?爪が汚れる。だから腰に手を当ててやったんだ。
ベンチの前で座れって言うもんだから座ったら。足を組まされるのさ。まぁこれは別に良いけど。骨がかわいそうだろって言うと悲しそうだったから、くつの裏を掃除してやった。これでアリも恐くないだろ。

それからくつと色々話した。思い出に残ったこと。楽しかったこと。むかつくこと。悲しかったこと。たくさん話した。くつは、俺が娘に連れられて、くつ屋で自分を買って、履いて、誇らしげに立ってくれたことが一番うれしかったってよ。なんかそう聞くと買って良かったって思えるじゃねーか。なぁ?それから、夏がキライなんだと。汗と涙でベトベトの汚い地面を這うのが、人間みたいでヤダってよ。なぁんか上からなんだよな、物言いが。でも俺さ、納得しちゃったよ。なんかな。
そのあと帰ろうとしたら、くつは車の突っ込んでくる道路に飛び出しちまった。こんだけ長く一緒にいると、主人の気持ちが一番よく分かってたんじゃねーかなって思うよ。
仕事に行きたくなかったことも、マンガを読みたかったことも、年甲斐も無くスキップしたかったことも、誰かと話をしたかったことも、死にたかったことも。つまりさ、くつは生きてんだよ。間違いねぇ。

私は、自分のくつも生きてるんじゃないか。そういう気がしてきた。

——- fin.
捧げ物

捧げ物

——-

「移ビーンズです。よろしく。」

後ろでカツカツと音がして教師が黒板に名前を書く。
ビーンズの横で意気揚々とアランが口を開く。

「移アランといいます。よろしくお願いします。仲良くしてね☆」

きゃぴぃ☆といった風にアランがポーズをとる。その後ろでまた、教師が名前を書いた。書き終えると、総勢40人(今数えた)の生徒の方向を向く。

「えー、今日からみんなのクラスメイトになる移ビーンズ君と移アランさんです。2人は双子、なんだよね?」

いきなり話題をふられて驚くビーンズ。予想していなかった。

「うん、私がおねーちゃんだよ!」

聞いていない事をアランが喋る。

(クソ、昨日300パターン程シミュレーションしたのが無駄だったかな?)

ビーンズは、心の中で舌打ちをしつつも顔は穏やかに微笑みを浮かべて「あまり似てないんですけどね。」と加えた。

「ハーイ、だそうです。皆さん質問とかあったら手を挙げてー。」

小学生か!と心の中でツッコミを入れながらビーンズはクラスメイトに目を向ける。
ざわざわと群衆がざわめき始めると手が挙がる。

「はい、はーい!はーい!はーい!はいはいはいはい!%*€〆≠ぎょ!」

もう後半はなんて言っているか分からない一際うるさい男子が当てられる。

「えっとぉ〜〜。えっとねー。(今考えるな。)あの、頭がぁー染めてるのに怒られないのはどーしてですかぁ?」

座った途端に周りの男子とニヤニヤし始める。前に出ようとしたアランのスカートをグッと引っ張りながら、

「えっとね、僕のコレは地毛。そんでコイツのはそーゆー病気。」

予想していたものだったのでスラスラ答える。横でアランがむくれているものの、病気だと言えば日本人は納得するに違いない!ジャパニーズワサビとはこのようなことだと思っているビーンズは心の中でガッツポーズをする。

「はい、じゃあ森君。」

「はい。」

ちょっと高めの声の女子、いや男の子だ。猫目で眼鏡を押し上げつつ言う。

「部活動とかは、しないんですか?」

瞳をキラキラさせながら男の子はビーンズ達の返事を待っている。
考えていなかった質問だったためビーンズは素早く思考をめぐらせる。
部活動。授業が終わった後、それぞれの趣味や才能の活性化を図る行いをする活動の事だ。
最近興味を持ち出したガーデニングができるような園芸部などにとっても入りたくなるが、考えを正しい道に直す。

(いいや、だめだめ!ここには一応仕事として来たんだし、僕みたいな宇宙人の問題児を抱える専業主夫は、家事に子育てに仕事に勉強!あー忙しい!やってる暇ないな!)

よし、と心に決めるこの間約0.05秒。横を見るとアランが口を開きかけている。(ヤバイ!) アランのセーラー服の襟を思いっきり引っ張る。ぐんっと胸のリボンの位置が上がって軽く首吊り状態になるが、何事も無いかのように話し出す。

「僕は、「何もしないよなぁ?アラン?パパとママは今、田舎に里帰りだもんなぁ。」

ビーンズが「仕事!」という目でアランを睨みながら続ける。

「僕たち2人だけで家の事やらないといけないもんな。そーいえば今日お前がご飯当番だぞ。」

今思いついた適当な法螺を口から放出する。本当ならアランがご飯なんて核兵器が出来上がるから、正直「てつだうー♪」とか言わないで欲しいと思いながらアランを睨み続ける。アランは「そうか」という驚きの顔をしたものの「でもぉ〜」だの「だってぇ」だの繰り返し、もじもじしている。そこでビーンズはとある言葉を口にした。ボソッと。

「meijiミルクチョコレート。」

アランがビクッとする。ビーンズがまた、ぼそりと言う。

「じゃがりこサラダ味。」

さらにビクビクッとする。

「スニッカーズ。」

アランが唸り声をあげて涙を溜めながら

「うっウッわかったぁ〜…。」

「部活は?」

ビーンズが問う。

「しますぇん〜。」

恐ろしく凍るような目でアランを見るビーンズ。そして、

「部、活、は、し、ま、せ…?」

涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら

「いぐっあっ、えっ、うー。ゔーえっぐ、じゅる。ふぇー…。」

「ん”ーー。」

最後にん”ーと言ったっきりアランは喋らなくなり、その代わりに鼻水をじゅるじゅると啜る音が絶えなかった。

(まぁ今日は3個で言うこと聞いていい子にしたから、会社にハッキングして機密情報をネタに販売中止にするのはスニッカーズだけにしとくか。)

販売中止にすると他の人類も被害を被るワケだが、人類絶滅の危機に曝されるよりはマシだとビーンズは思う。

「他に質問はありますか?」

さっきとは打って変わって優しく微笑み、クラス全体に呼び掛けるビーンズ。
アランは、ビーンズはいつもこーゆー時にクヌゥルトフ星人(生物の身体に内部寄生し意思をも乗っ取る超小型生命体)に乗っ取られているのではないかと思っている。

「はい。」

女の子が手を挙げる。

「どうして泣き出したんですか?」

ビーンズ達のやり取りは遠目に見ると、突然アランが泣き出したようにしか見えないのだろう。なので、東洋の神秘を信じて疑わないビーンズは笑顔でこう答えた。

「そういう病気です。」

数日後、 ───、

地球星 日本人、中学生として馴染んできたビーンズは何を訊かれても「病気です!」と笑顔で答える日々を送っていたが、不意にその平穏を乱す最狂の来訪者が心のドアを突き破ってくる。(ノックして欲しいね。)

「ねぇビー!!」

ガコッ

「ちょっとウデ引っ張んないで。外れたじゃん。」

顔をしかめて肩を嵌めるビーンズにアランが指をさして

「ウーケーるー↑ww」

「なにそれ。」

「わかんない!女の子たちがたくさん言ってた!」

「どーでもいいけどさ、肩外れるの結構痛いんだよ。」

アランは自分の肩に手を掛けゴギッと下に落ろす。

「ほんとだ。これ…痛いわ。」

「それ折れてるんじゃないの。」

青い肌がジワジワと緑色になっていくのを見ながら、苦虫を噛み潰したような顔のビーンズ。

「で、何さ?」

「…ッ。」と言いながらアランは肩を押さえていたが、クルっと元気良く振り返り話し出す。

「そーそー!僕もそれ着たい!!」

「それって…学ラン?」

「うん!それ!」

「男になりたいってこと?」

「うん!」

今の会話でそこまで解った僕ってすごい!と思いながらビーンズは口を開く。

「無理だよ。時間かかるし、周囲の特定の人間の記憶を操作するのは大変なんだよ。脳に損傷を与えず、且つ漏れの無いよう非常に微弱な電子波を当てないといけない。そのプログラムもまだ初期設定だから書き換えないといけないし、何より電波を飛ばすアンテナの調子が悪くてさ。母星との交信も5.3%繋がりにくくなってるんだよ。」

早口でまくし立てるビーンズを「んきゅ?」というハムちゃん顔で見つめるアラン。

(コイツ今の話0.1μmもわかってないな。)

ビーンズが問う。

「今の話わかった?」

「ぜんぜん!!」

ため息をつくビーンズ。どこかにコイツが理解できるような『人類の、電波による記憶操作の仕方』という絵本がないだろうかと考える。

「できなくないっていうのは!わかった!」

「都合が良いね。その頭くれよ。」

「やだ!!」

(いらないけどね。)

「だからね、屋根に銀色の棒があるでしょ?あれの調子が悪いの!だから無理!」

「あー!あの物干し竿ね!ビーのパンツあそこに干しといたよ!」

「よし、お前を殺すのはひとまず置いといて、どうして男がいいんだ?女の子でもいいじゃん?」

「僕もビーたちとボーるドッチ?やりたい!」

殺意でいっぱいだったビーンズの頭にドッジボールをしているアランが浮かぶ。

(無理。)

うっかりアランが本気を出して学校を中心とした周辺1.5kmくらいが焼け野原になったらと思うとぞっとした。(ヤバイヤバイだな。)

「無理!お前がドッジボールやるとプレイヤーが消滅するから。」

「えー。でもぉ…。それ着たいし…キャッチぼールしたいし…。女の子たち僕のことムシするし…。」

アランのことが恐いんだろうとビーンズは思う。
途端に幼い頃を思い出す。

(誰も一緒に遊んでくれない。みんな、僕についてこれない。寂しかったな。)

「わかったよ。」

「ほんと?!!」

「そのかわり自己紹介からやり直しだからな!」

「えっ、また帰ったら300回れんしゅうするの…。」

「いや、帰ったらとりあえず戦争だ。」

「なんで!?」

「僕のパンツは鳥じゃない!屋根の上には干さないんだよ!」

そう言ってビーンズはアランの肩を思いきり殴った。

(コイツの所為で今日も寝れない。)

——-fin.
敬愛する方への捧げ物

敬愛する方への捧げ物

髪長すぎた

髪長すぎた

/ケニスタ

痛い、痛い、熱い。苦しい。下腹の辺りが重い。気持ち悪い。息があがる。熱い。熱い。脳が燃えるような、焼け爛れるみたいな感じに似ているような。ただ酷い気分だ。内臓のものがひっくり返る。ろくなものも入っていないくせに止まらない。背後から枯れた声で罵倒される。
そんな時さえ、考えるのは君のこと。愛しい愛しい君のこと。ついさっきまで君に包まれていた自身は今、醜い汚物に包まれている。あぁ、僕はなんて汚い。君に触れていた指も、口も、君を映していた目でさえ。綺麗なトコなんて一つも無いんだ。
君が犯されている気がしてひたすら謝った。恥ずかしい、恥ずかしい、汚い汚い汚い。 死にたい。
消えたい。ふとそんなことを考えて思い直す。そんなこと望まなくたって、きっと。
ほら、3、2、1。


ゴシャッ


「なんてこった!ケニーが殺されちゃった!!」

「この人でなしー!!」

——-fin.

僕の夢はあんぱんたちによるグレートウォーを防ぐ事です。

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